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東京地方裁判所 平成5年(ワ)14300号 判決

主文

1  被告は、原告に対し、金一七四万六四七〇円及びこれに対する平成五年九月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  この判決の第1項は仮に執行することができる。

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがなく、《証拠略》によれば、請求原因2の事実を認めることができる。

二  そこで、原告が支払つた管理費等について、被告に支払義務があつたかどうかについて検討する。

1  《証拠略》によると、被告は、平成元年八月二四日、本件建物の所有者であつた訴外株式会社トランザム開発との間で、訴外原徹の被告に対する六〇〇〇万円の借入金債務を担保するため、本件建物につき譲渡担保契約を締結して本件建物の所有権を取得し、同月二八日、その所有権移転登記を経たものであり、その後、原告が平成四年八月五日本件建物を競売により取得するまで、本件建物の譲渡担保権者であつたことが認められる。

2  そして、規約によれば、「区分所有者」は管理費等を管理組合に納入しなければならないとされているところ(二三条、二条二号)、被告は、本件建物については譲渡担保権を有するに過ぎず、本件建物に居住したこともないから、管理費等の支払義務を負うものではない旨主張する。

しかし、譲渡担保は、債権担保のためであるとはいえ、抵当権等の他の担保類型とは異なり、目的物件の所有権そのものを移転するという構成をとるものであつて、不動産登記上もその所有名義を移転することになるのであるから、譲渡担保として本件建物の所有権を取得した者も、右規約にいう「区分所有者」に当たると解するのが相当である。確かに、譲渡担保権者が目的物件を確定的に自己の所有に帰させるには、自己の債権額と目的物件の価額との清算手続をすることを要し、他方、譲渡担保権設定者は、譲渡担保権者が右の換価処分を完結するまでは、被担保債務を弁済して目的物件を受け戻し、その完全な所有権を回復することができるものではあるが、これは譲渡担保が債権担保を目的とすることに伴う当事者間における制約であつて、少なくとも対外的な関係で譲渡担保権者が目的物件の所有者たる地位に立つことを否定することはできないというべきである(だからこそ、譲渡担保権者は、目的物件の所有権に基づいて権原のない不法占有者に対して妨害排除請求をすることができるし、また、第三者異議の訴えによつて目的物件に対し譲渡担保権設定者の一般債権者がした強制執行の排除を求めることもできるのである。)。

したがつて、前記認定のとおり譲渡担保により本件建物の所有権を取得した以上、被告もまた区分所有者として、管理組合に対し、規約に基づく管理費等を支払うべき義務を負うものと解さざるをえない。

なお、規約によれば、「区分所有者」は、現実にその専有部分を使用収益しているか否かにかかわらず、管理費等の支払義務を負うのであるから、被告が、本件建物の所有権を取得した平成元年八月二四日以降、現実に本件建物に居住するなどこれを使用収益しなかつたとしても、前記規約に基づく管理費等の支払義務を免れるものでないことはいうまでもない。

三  そうすると、原告は、被告が本来支払うべき義務を負つていた平成元年九月分から平成四年七月分までの管理費等合計一七四万六四七〇円を被告に代わつて立て替えたことになるから、被告にこれを求償することができるが、被告の右求償債務は期限の定めのないものと解されるから、原告の履行の請求によつて遅滞に陥るものというべきである。

四  以上によれば、原告の本件請求は遅延損害金の始期を本件訴状送達の日の翌日である平成五年九月三日とするほかはすべて理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条但書、仮執行の宣言について同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 佐藤久夫)

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